若い女性の排卵障害に多い疾患の中に「多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)〔PCOS/PCO〕」という疾患があり、不妊症の原因となります。
このページでは、この多嚢胞性卵巣症候群について解説していきます。
※ PCOS/PCO:polycystic ovarian syndrome

卵巣で男性ホルモン(テストステロン)がたくさん作られてしまうせいで、排卵しにくくなる疾患です。

通常、1回の排卵に対し、数十個の卵胞が同時に育ち始め、その中の1個が十分に成長して排卵します。
残りの卵胞は途中で成長が⽌まり、やがて小さくしぼんでいきます。
ところが、多嚢胞性卵巣症候群では、成長途中の卵胞が一斉に成⻑をとめてしまったり、時間がかかってしまい、卵巣の中にたくさんの⼩さな卵胞(=嚢胞:のうほう)が排卵されずに残ってしまいます。

超音波検査で、たくさんの嚢胞(卵胞)を認める卵巣であることから ”多嚢胞性卵巣症候群” と呼ばれています。
排卵障害による不妊症をおこす疾患の一つです。

多嚢胞性卵巣症候群の発症率

20代〜45歳の女性の約5~8%が発症するとのデータがあります。

多嚢胞性卵巣症候群の原因

体質や環境など様々な原因があると考えられていますが、明確な原因は分かっていません。
遺伝的な要因も指摘されているようですが、疾患を引き起こす明らかな遺伝子の異常は報告されておらず、遺伝性疾患ではありません。
また、肥満は多嚢胞性卵巣症候群の症状を悪化させると考えられています。

卵胞が育ちにくく、排卵を妨げる理由としては、

  • 性腺刺激ホルモン(=ゴナドトロピン)、卵胞刺激ホルモン〔FSH〕、黄体形成ホルモン〔LH〕の分泌バランスが悪く、黄体形成ホルモンばかりが過剰に分泌されてしまい、排卵をおこしにくくします。
  • 膵臓から分泌されるインスリンは、血糖値を下げるホルモンですが、インスリン抵抗性(高インスリン血症)があると、脳下垂体から分泌される男性ホルモン(テストステロン)が増加すると考えられています。
    男性ホルモンは卵胞の発育を抑制し、卵巣の外側の膜(白膜)を厚くすることによって排卵を妨げます。

ということをあげることができます。 

女性ホルモンの調整

多嚢胞性卵巣症候群の症状

多嚢胞性卵巣症候群による自覚症状には、次のような症状があります。

主症状(卵胞が育たないことでおきる症状)

  • 稀発月経(月経周期が35日以上
  • 不正出血
  • 無月経

その他の症状(テストステロンが多いためにおきる症状)

  • 尋常性挫創(じんじょうせいざそう)=にきびが多い
  • やや毛深い、多毛
  • 肥満
  • 血糖値上昇(耐糖能異常)

排卵に重要な働きをする黄体形成ホルモン(LH)と、膵臓から分泌されるインスリンが通常より強く卵巣に作用するため、脳下垂体から分泌されるテストステロンが増加すると考えられています。

このため、月経周期7日以内のLH値が、FSH(卵胞刺激ホルモン)値より高く(LH/FSH>1)、血中テストステロン値が上昇していることがあります。

【テストステロン(男性ホルモン)の働き】

女性で、男性ホルモン?と、思われるかもしれません。
確かに、「男らしさ」を象徴する筋肉や骨の発達を促進する働きを持つホルモンですが、男性だけが分泌しているホルモンではありません。

女性の場合は卵巣、脂肪、副腎で分泌れており、血中の値では、男性の5~10%(1/10~1/20)と言われています。

神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリン、睡眠に関係するメラトニンなどのホルモンの分泌を促したり、女性ホルモンを作り出しています。

卵巣のまわりには顆粒細胞層と言われる組織が存在し、この顆粒細胞が男性ホルモンを女性ホルモンに変えて、卵子を成熟させて排卵を促しています。

多嚢胞性卵巣症候群の検査と診断

 検査は血液検査と、卵巣の超音波検査(エコー)を行いますが、次のような3つの症状があれば、多嚢胞性卵巣と診断されます。

  1. 月経不順(初経からずっと月経が不順である)
  2. 超音波検査で、卵巣の中に小さな嚢胞(卵胞)がたくさんある(=多嚢胞性卵巣)
  3. 男性ホルモンが高くなるなどホルモン値のアンバランスがみられる
    ・男性ホルモン(テストステロン)が高値
    ・黄体形成ホルモン〔LH〕が高値、卵胞刺激ホルモン〔FSH〕が正常
     (月経周期7日以内では、LH/FSH>1)

また、超音波検査(エコー)で卵巣を見てみると、10mmくらいの同じような大きさの卵胞がたくさんできていて、卵巣被膜の直下に一列に並ぶ ”ネックレスサイン” と呼ばれている現象が観察できます。

多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群の治療法

肥満を伴う場合は、インスリン抵抗性が高まり、血中インスリン量が増加している場合があり、肥満の改善をすることで、インスリン抵抗性の改善が期待できます。
治療には、妊娠を望む場合と、望まない場合とで異なります。

妊娠を望まない場合

月経異常や不正出血に対しての治療が行われ、漢方療法、ホルモン療法、カウフマン療法がおこなわれます。

  • 漢方療法では、温経湯(うんけいとう)などが使われます。
  • ホルモン療法は、ピルなどを使用します。
  • カウフマン療法は、自然なホルモンの変化を、薬剤を用いて疑似的に作りだす方法です。
    月経3日目(低温期)よりエストロゲンを、月経15日目(高温期)よりプロゲステロンを補充します。

妊娠を望む場合

いわゆる不妊治療を行うことになります。
症状の程度には個人差がありますが、まずは排卵誘発剤を使って排卵を促し、妊娠をめざします。
ホルモン療法をベースにして、経口あるいは注射による排卵誘発剤を用います。

【排卵誘発剤】

  • クロミフェン
    多嚢胞性卵巣症候群の排卵障害に有効とされており、50~70%の排卵率と、10~20%の妊娠率が報告されています。
    温経湯との併用で排卵率が上昇するようです。
  • 温経湯(ウンケイトウ)
    血中黄体形成ホルモン〔LH〕量を調節する作用があると考えられています。
  • レトロゾール(アロマターゼインヒビター):本来は、乳癌の治療薬ですが、卵胞刺激ホルモン〔FSH〕の分泌が促される現象が起こるため、排卵誘発剤として使用されることがあります。
    クロミフェンより高い排卵率と妊娠率があり、多胎率やOHSSの発症リスクが少ないなどの利点があります。

※OHSS:ovarian hyper stimulation syndrome:卵巣過剰刺激症候群
卵巣が腫大し、血中のエストロゲンの上昇により、腹水の貯留、血液の濃縮などが起こるもの。

【排卵誘発剤で排卵しない場合】

  • ゴナドトロピン療法
    FSH製剤を注射して排卵を誘発する方法です。
    しかし、多嚢胞性卵巣症候群は至適の範囲が狭く、量が多すぎるとOHSSがおこり、量が少ないと全く反応せず排卵しないということがあるため、量の調整が難しいと言われています。
  • メトフォルミン(糖尿病の治療薬)
    血糖値をコントロールすることで、インスリンの過剰な分泌が抑制されます。
    その結果、卵巣でのテストステロンの分泌が抑制され、排卵障害が改善されることが分かってきています。

【その他の療法】

  • 手術療法:腹腔鏡下で卵巣に穴をあける手術(多孔術)
    多孔術によって、自然排卵や排卵誘発剤に対する反応性の改善が起こりますが、効果は半年~1年程度と言われています。

多嚢胞性卵巣症候群の予後

多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害は、年齢とともに進み、月経周期はどんどん長くなっていく傾向にあるようです。

月経不順や無月経を治療せずに長期間放置すると、子宮内膜に異常な変化が生じ、子宮内膜増殖症や子宮体癌(高分化型)が発生することがあります。

また、年齢と共に卵巣機能が低下してくると、月経不順が改善されてくることがあるようですが、メタボリックシンドロームなどのリスクが高くなるといわれています。

毎月の生理を観察することで、早期発見、早期治療につながると思います。
お若い方の中には、生理不順で、前回の生理がいつ来たのかも覚えておらず、生理がないことはむしろラクで良い、とすら考えている方も少なからずおられます。
生理の不調を放置していて、イザ妊活をはじめてみたら不妊症になっていた、ということもあり得ます。
一旦不妊症になってしまうと、妊娠できるまでに、時間が必要となります。
何かいつもと違うとか、何かおかしい…と思った場合には、まずは病院の受診が大切です。