当院に来院される不妊症の患者様は、大別すると、

  • 排卵に問題がある不妊症・・・排卵障害の患者様
  • 着床に問題がある不妊症・・・着床障害の患者様

の2つのグループに分けることができます。

このページでは、後者の着床障害の主たる原因疾患である「黄体機能不全」について解説していきます。

黄体機能不全

まずはじめに、”黄体機能不全(おうたいきのうふぜん)” の「黄体(おうたい)」とは何のことでしょう?
黄体とは、卵巣の卵胞から卵子が排卵された後、卵胞は空となって卵巣に残ります。
この残った卵胞が、ホルモンを分泌する組織へと変化したものを「黄体」言います。
なぜ「黄体」と言うかというと、肉眼で黄色に見える組織であることから、「黄体」という名称が付いています。

脳下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(=黄体化ホルモン)〔LH〕の作用によって、黄体は、黄体ホルモン(=プロゲステロン)〔P4〕を分泌して、子宮内膜を安定させます。

排卵した卵子が受精卵となると、黄体は黄体ホルモンの分泌を続けていきますが、卵子が着床せず妊娠しなければ、黄体は黄体ホルモンの分泌を停止し、14日程度の寿命で黄体は瘢痕組織である白体へと退縮していきます。

排卵と黄体

黄体機能不全とは?

黄体は、主に黄体ホルモンの分泌に重要な役割を果たします。
この黄体ホルモンは、次の方な働きをして、妊娠の準備をするためのホルモンです。

  • 受精卵が着床しやすいように子宮内膜を厚くし安定させる
  • 妊娠に備え、体温を上げる(基礎体温の高温期をつくる)
  • 妊娠に備え、血管を拡張させて、骨盤内に血液をためる
  • 排卵を抑制する
  • 乳腺を発達させる

また、妊娠した後には、

  • 妊娠を維持する
  • 子宮筋の収縮を抑える(流産や早産を防ぐ)

という妊娠維持にとっても重要なホルモンの働きもあります。

黄体機能不全とは、何らかの原因で黄体ホルモンが、子宮内膜に作用できず、妊娠に適した子宮内膜の変化が正常に起こらない病態を言います。
程度にもよりますが、不妊症の原因の一つであり、妊活を進めていくためには、病院での不妊治療を受ける必要があります。

黄体機能不全の発症率

黄体機能不全の頻度は、次のような発症率であると言われています。

  • 女性不妊症の10~30%
  • 不育症の25~60%

なお、連続して黄体機能不全を呈する確率は、50~80%と高い率となっています。

黄体機能不全の症状

黄体機能不全の症状は、黄体ホルモンの分泌量が少ないなど、子宮内膜に作用できない状態の症状です。
具体的な症状には、次のような症状があります。

  • 基礎体温の高温期が短く(10日に満たない)、月経周期が短い(頻発月経)
  • 低温期と高温期の平均温度差が0.3℃以下
  • 高温期の前半の温度の上昇が悪い、または、高温期の後半に体温が低温期の体温まで下がる
  • 高温期に不正性器出血(点状出血)がある
  • 妊活をはじめて1年以上経っても妊娠できない(不妊症)
  • 流産率が高く、繰り返す(反復流産)

該当する症状がある場合、特に妊活中であれば、病院での検査をお受けいただき、早期に不妊治療を始めることをおすすめいたします。

 

黄体機能不全の原因

黄体機能不全の原因には、次のようなことをあげることができます。

女性ホルモンの調整

①黄体の働きを調節している神経-内分泌の問題

間脳にある視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(=性腺刺激ホルモン放出ホルモン)〔GnRH〕、下垂体から卵胞刺激ホルモン〔FSH〕、黄体形成ホルモン〔LH〕などの分泌不全により、黄体が機能不全を起こしているケース。

②卵巣の問題

黄体に問題があり、黄体ホルモンの分泌不全を起こす、または、黄体が早くその機能を終えてしまうケース。

③子宮内膜の問題

黄体ホルモンの分泌は正常に行われているにも関わらず、黄体ホルモンの受け手である子宮内膜にあるホルモンの受容体(レセプター)が数が少ない、機能に異常がある(反応性の低下)ケース。

④その他

次のようなことも、原因となります。

  • 卵巣機能が未熟な若年者・・・年齢とともに自然治癒することあり
  • 加齢による卵巣機能低下
  • ストレス
  • 肥満/痩せ(摂食障害)
  • 過度な運動
  • 甲状腺機能の異常
  • 高プロラクチン血症
  • 排卵誘発 などさまざま

近年、子宮や卵巣の血流不全に伴う黄体の血管新生不全ということも原因としてあげられています。

病気が原因となっておきる場合もあれば、生活習慣によっておきることもあります。
生活習慣の見直しは、とても重要です。

黄体機能不全の検査

検査は、排卵の1週間後位に病院に行くことが好ましいとされています。
また、2周期程度記録した基礎体温表があると参考になります。
  • 黄体期中期(排卵後1週間位)の血液検査
    黄体ホルモンの値が10ng/ml未満
  • 経腟超音波検査
  • 基礎体温のチェック
    高温期が短い(10日に満たない)
    高温期中に低温期の温度まで下がる日がある
    高温期と低温期の差が0.3℃以下となっている
血液検査では、黄体ホルモンの値だけでなく、卵胞ホルモンの値も測定し、黄体ホルモンと卵胞ホルモンとの比率もチェックします。

黄体機能不全による不妊治療

黄体機能不全に対する治療は、原因に応じた治療を行います。
大きくは、(1)黄体ホルモンの分泌を促す治療「黄体賦活化療法」、(2)外部からホルモンを補充する治療「ホルモン補充療法」、(3)その他 があります。

①黄体賦活化療法

(1)黄体賦活化(刺激)療法:LHサージ誘起
排卵誘発剤によって、LHサージを誘起し、黄体機能の改善をはかります。
排卵誘発剤には、次のものがあります。
  • hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)注射
    注射用hCG
  • 点鼻薬
    スプレキュア
成長途中にある卵胞からエストロゲン(E2)が分泌され、その作用によってLH(黄体形成ホルモン)が急激に上昇するLHサージがおこります。
LHサージの後に、排卵が起こります。
 
hCGには、LH作用があり、排卵後の黄体を刺激して黄体ホルモンの分泌を促します。
 

②ホルモン補充療法

 
黄体ホルモンの分泌量が少ない場合、排卵後に、黄体ホルモンを補充する療法が行われます。
内服薬や注射製剤で補います。
代表的な薬には、
  • 黄体ホルモン剤(内服薬)
    デュファストン
    ルトラール
    プロベラ
  • 黄体ホルモン注射
    プロゲデポー
  • 黄体ホルモン膣坐薬
    ウトロゲスタン
    ルティナス  など

などがあります。

③その他の治療

甲状腺機能の異常、高プロラクチン血症によって、黄体機能不全が起きている場合には、まずは原因疾患の治療を行います。
肥満/痩せ(摂食障害)によるものは、体重のコントロール、栄養指導、運動療法などが行われる場合もあります。
過度な運動がみられる場合は、適度な運動を心がける必要があります。

子宮や卵巣の血流不全に伴う黄体機能不全の場合、(1)黄体賦活療法や(2)黄体ホルモン補充療法では改善できないことがあります。
この場合、骨盤内の血流を増やし、子宮・卵巣の局所的な血管抵抗を減らし、子宮・卵巣への血流を増加させる必要があります。
近年、鍼灸の研究が進み、これらの病態に有効であるとする学会発表されています。

近年の鍼灸の研究には、以下のような研究があります。

①『 子宮内膜形状不良患者に高度生殖医療と鍼灸治療を併用した57症例 』
ホルモン剤を使用しても子宮内膜が厚くならない不妊症患者に対して鍼灸治療を併用したところ、約6割に子宮内膜の改善がみられた。また改善された者のうち、約5割が妊娠に至った。
これにより子宮内膜形状不良の者に対して、鍼灸治療が有効であることが示された。

②『中髎穴刺鍼が不妊症患者の子宮・卵巣血流に及ぼす影響 』
鍼灸治療後に、子宮動脈の約9割が抵抗値減少・子宮放射状動脈も約7割が抵抗値が減少していることを確認。
血管抵抗値が減少したことは、鍼灸治療により、子宮の血流が改善した事を示していている。

不妊治療に鍼灸が効果

黄体機能不全でお困りの場合、病院での不妊治療とともに、鍼灸治療の併用をお試しいただきたいと思います。