顎関節症(がくかんせつしょう)は、口を開けると顎(あご)が痛い、口が大きく開かない、カクッと音が鳴るという症状がでる疾患ですが、症状があるにもかかわらず、病院の受診をしない人が多い疾患でもあります。
自然に症状が直るケースもありますが、中には放置をしているうちに症状が進行してしまうこともあります。
アゴは、食べ物を噛む時に使う他、生活の中でさまざまな場面で使う大切な体の一部分です。
痛みがあったり、口が開かないと
日常生活に支障が生じ、QOL(生活の質)が低下しがちです。
このページでは、顎関節症の症状緩和にむけて、原因や症状など、正しく理解することからはじめてみましょう。

顎関節症は、次のような3つの症状が顎関節に起こる疾患です。

  • 開口時痛・・・口を開けると痛い、違和感がある、ズキッとする
  • 開口障害・・・口が大きく開かない(正常では指が3本分開く)
  • 関節雑音・・・口を開け閉めする時、顎関節で カクッ、カクカク、ゴリッ、ジャリッ などと、音が鳴る

こうした症状は、顎関節を構成する筋肉・関節円板・靭帯、骨などの異常によって生じます。

顎関節症

なお、関節雑音がしても、痛みがなければ問題ありません。
痛みを伴ったり、口が大きく開かないという症状を伴う時に、顎関節症と診断されます。

男女の差はなく発症しますが、病院を受診する者は女性が多く、10歳代頃後半から増加し、20~30歳代で山ができ、その後は年齢とともに減少するようです。

顎関節の構造

顎関節症の症状や原因を説明する前に、まずは顎関節の構造についてみていきましょう。
顎関節は、下顎骨にある下顎頭、側頭骨にある下顎窩と、下顎窩の手前にある関節結節とで構成される関節です。
この2つの骨の間には、関節円盤と呼ばれるクッションの働きをする軟骨や靭帯があり、滑液と呼ばれる潤滑油が満たされた関節包で取り囲まれています。

また、骨には次のような筋肉が付着しており、口の開け閉めを行っています。

  • 口を開ける働きをする舌骨筋群
  • 口を閉じる働きをする咀嚼筋(咬筋)、僧帽筋、内側翼突筋、外側翼突筋
顎関節の構造
顎関節症に関連する筋肉など

顎関節症の分類

顎関節症は、構造上原因となる部位によって4つの型に分類されます。

Ⅰ型(筋肉の問題)

1つ目の型は、顎関節を動かす筋肉(咬筋や側頭筋など)の問題でおきる顎関節症です。
筋肉の問題とは、筋肉の使い過ぎ(筋肉痛)です。
この型の顎関節症は、咬筋がある頬、側頭筋があるこめかみに痛みが起きるのが特徴で、患者様の中には、側頭筋によるこめかみの痛みを頭痛と勘違いするケースもあります。
筋肉の使い過ぎが原因となっているので、安静とマッサージが効果的です。

額関節回りの筋肉

Ⅱ型(靭帯の問題)

この型の顎関節症は、主に靭帯の問題で起こるものです。
靭帯の問題とは、簡単に言うと関節の捻挫です。
捻挫とは、関節を構成する骨、関節円板、靭帯、筋肉、関節包などの組織に負担がかかって傷めてしまうことを言います。
靭帯は関節の外側にある筋肉の一種で、それが骨と骨とをしっかりつなぎ、安定した運動ができるよう関節を支えているものです。

顎関節でも無理な力がかかると傷めることがあり、

  • 無理をして口を大きく開ける
  • 硬い物を食べる
  • 歯ぎしり
  • 食いしばり  などで起こります。

また、顎関節は耳の穴の前にあるので、耳の痛みだと勘違いしてしまうこともあるようです。

安静にし、顎関節に過度の負担をかけないように、食べ物は小さく切る、硬い物は食べないなどすることが有効です。

Ⅲ型(関節円盤の問題)

関節円板の位置に問題がおきてしまうものです。
クッションの役割をする関節円板が正常の位置から前方にずれてしまい、口を開けるとカクッとか、カクカクなどといった音(関節雑音)が鳴るようになります。
音が鳴るだけであれば問題はありませんが、位置のずれがひどくなると関節雑音がなくなり、口が開かない開口障害が出現するようになっていきます。
このようなレベルにまで進行してしまうと、一般的には専門外来などで治療を受ける必要があるかもしれません。

顎関節の構造と顎関節症

Ⅳ型(骨の問題)

顎関節を構成する下顎骨の関節突起に変形がおきるものです。
このタイプは症状だけでは診断は難しく、レントゲンなどの画像を撮って、骨に変形が認められた場合、このタイプの顎関節症となります。
骨の変形は残念ながら元にもどすことはできません。
マウスピースの使用や、開口訓練などで、痛みがなく口が開くようにリハビリを行っていかなければなりません。

顎関節症の原因となりうる悪い習慣

顎関節症の原因は、かつては “悪い噛み合わせ” などと言われていたこともありました。
しかし、現在では、顎関節症は1つの原因によって起きているのではなく、さまざまな因子が関係して起きている “多因子病因説” が一般的になっています。
顎関節や顎関節に関係している筋肉に負担をかける因子がいくつも重なって症状が起こるのです。
その中には、日常的な習慣が悪影響を及ぼしていることがあるので、もし症状でお困りでしたら、ご自身の習慣を見直してみてください。

骨格や作りの問題(解剖要因)

顎関節や顎関節周囲の筋肉がひ弱であるため、顎関節を傷めやすい

噛み合わせの問題(咬合要因)

噛み合わせの不良が顎関節に悪影響を及ぼす

過緊張(精神的要因)

持続的なストレスにより筋肉が過緊張し、顎関節に悪影響を及ぼす

顎関節の損傷(外傷要因)

打撲、転倒、交通事故などにより顎関節を傷める

生活習慣の問題(行動要因)

無意識の癖

食いしばり(歯列接触癖〔TCH〕)、頬杖をつく、受話器の肩ばさみ、下顎を前方に突き出す癖(携帯電話やスマホの長時間操作)、噛みくせ(筆記具や爪を噛む)、うつぶせになって本を読む
※食いしばりは、顎関節症患者の約8割にみられる、

食事

硬いものを噛む、片側ばかりで噛む習慣

スポーツ

コンタクトスポーツ(ラグビー、アメリカンフットボール、サッカー)、球技(バレーボール、バスケットボール)、ウインタースポーツ(スキー、スノーボード)、スキューバダイビング

睡眠

歯ぎしり、高い枕や固い枕の使用、つぶせ寝、腕枕、睡眠不足

生活

精神的なストレス、緊張の持続、神経を使う仕事、細かい作業、重たいものを持ち上げる・運ぶ

音楽

吹奏楽器の演奏、大きな口を開けて歌う(声楽、カラオケ)、大きな声を出す(発声、演劇など)

顎関節症の一般的な治療に関して

日本顎関節学会の診療ガイドラインでは、顎関節症の治療には、可逆的な治療法を選択すべきと提案されています。
逆に、不可逆的な治療、例えば、歯を削る(咬合調整処置)、かぶせものをする、矯正をするなどは、避けるべきとされています。
それは、治療を行っても直らなかった場合、元の状態にもどすことができないためです。
不可逆的な治療を行わなくても、症状を改善させることができるのです。

可逆的な治療法とは、マウスピース(スプリント)、開口訓練、マッサージ、湿布、習慣の改善、そして鍼灸治療です。
また、完治にはセルフケアがとても重要で、再発予防にもつながります。

日常生活で気を付けたいこと

  • 痛みがある時は、冷湿布(アイシング)をし、痛みが落ち着いてきたら、温湿布をします。
  • 食べ物は、硬いもの、大きい塊は避け、小さく切り分けるようにしましょう。
  • あくびなど、大きく口を開けることは避けましょう。
    あくびをする際は、下顎を手でおさえて口が大きくあかないように注意することが必要です。
  • 急に開閉口する動作は、関節をさらに傷つける可能性があるので避けましょう。
  • 痛みが落ち着いてきたら、マッサージが有効です。
    人差し指~薬指で顎関節周囲や側頭部を押し当ててから円を描くように回してマッサージをしましょう。
    良かれと思い強くマッサージするのは、逆効果となるので注意が必要です。
  • 無意識におこなっている行動や、習慣が原因となっていることがあります。
    自分で見つけることは難しいかもしれませんが、周りの人にも協力してもらい、気づくことがあれば、直していくことで症状改善につながります。
    例えば、頬杖をつく、うつ伏せ寝、くいしばりなど