東洋医学は、中国3000年とも、4000年ともいわれている歴史の中で、経験的に積み重ねられてきた経験医学の1つです。
西洋医学が確立する前から、伝わってきた伝統医学とも言える長い歴史を持った医学です。

東洋医学の中に、鍼療法と灸療法の2つの療法があります。
さまざまな疾患、幅広い症状に有効であることが、経験的に知られてきており、近年の科学的な基礎実験や臨床実験で、その有用性が明らかになってきています。

刺鍼

次にあげるような世界的に有名な機関でも、鍼灸の効果について取り上げられており、鍼灸の適応症をあげています。

世界保健機構が認める
鍼灸の適応症

世界保健機構〔WHO〕では、鍼灸が有効であると考えられる48疾患をリストアップしています。

神経系(8)

頭痛、片頭痛、三叉神経痛、顔面麻痺、肋間神経痛、脳卒中後の麻痺、末梢性ニューロパチー、ポリオ後遺症

運動器系(6)

頚腕症候群(首肩こり)、五十肩、テニス肘、腰痛、坐骨神経痛、変形性関節症

消化器系(15)

食道痙攣、噴門痙攣、しゃっくり、胃下垂、急性・慢性胃炎、胃酸過多、慢性十二指腸潰瘍(疼痛の緩和)、急性十二指腸潰瘍、急性・慢性腸炎、急性細菌性赤痢、便秘、下痢、麻痺性イレウス

呼吸器系(9)

感冒、急性・慢性咽頭炎、急性扁桃炎、急性気管支炎、急性鼻炎、急性副鼻腔炎、小児気管支喘息、気管支喘息

泌尿器系(2)

神経性膀胱障害、夜尿症

感覚器系(5)

急性結膜炎、中心性網膜炎、近視、白内障、メニエール病

歯科系(3)

歯痛、抜歯後疼痛、歯肉炎

 

1979年6月に、12か国が参加する「鍼灸に関するWHO地域間セミナー」が北京で開催され、鍼治療が有効であると考えられる疾患の暫定リストが作成されました。
当初は30疾患でしたが、後に49疾患に増えたかたちで公表されました。
→ 詳細は、「The WHO viewpoint on acupuncture」ページをご参照ください。
ただし、このリストは臨床経験に基づくものであり、必ずしも対照群を置いた臨床試験に基づくものではない、という注釈が付いています。

つまり、30年以上前にリストアップされた際には、科学的な検証がなかったものもありました。
しかし、この30年の間に科学的な研究が進み、リストアップされている症状、リストアップされていなかった症状であっても、鍼灸の有効性を裏付けするエビデンスが示され、学会発表、論文発表されてきています。

アメリカ国立衛生研究所が
認める鍼灸の適応症

アメリカ国立衛生研究所〔NIH〕は、鍼灸療法は、各種の病気に対する効果、その科学的根拠、西洋医学の代替治療としての効果などを調査し、その結果「有効である」と発表しました。

鍼灸に有効性がある適応症として、次ぎの75疾患をあげています。

運動器系 頚肩腕症候群(首肩こり)・腰痛・頚椎捻挫後遺症(むち打ち損傷)・五十肩・腱鞘炎・関節炎・リウマチ・外傷の後遺症(骨折・打撲・捻挫)
循環器系 動悸・息切れ・高血圧・低血圧症・心臓神経症・動脈硬化症
呼吸器系 気管支炎・喘息・風邪および予防
消化器系     胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
代謝内分秘系 バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血
泌尿器・生殖系   膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎(インポテンツ)
婦人科系 生理痛・月経不順・不妊・血の道症・更年期障害・乳腺炎・白帯下・冷え性
耳鼻咽喉科系 中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎
眼科系 疲れ目・かすみ目・眼精疲労・仮性近視・結膜炎・ものもらい
小児科系 小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善


1997年にアメリカ国立衛生研究所〔NIH〕は、「鍼治療に関する合意のためのパネル会議(Consensus Panel)」を開催し、鍼の有効性や安全性、研究方法などを示した。

アメリカ国立保健研究所〔NIH〕が「鍼治療が有望である」と認めた3症状は次の通り。

  • つわり(妊娠悪阻)
  • 成人の術後、化学療法による嘔き気や嘔吐
  • 歯科の術後の痛み

アメリカ国立保健研究所〔NIH〕が「補助療法として有用、または包括的患者管理計画に含める可能性がある」と認めた11症状は次の通り。

  • 腰痛
  • 頭痛
  • 月経痛
  • 筋筋膜痛
  • 変形性関節症
  • 線維性筋痛症
  • 手根管症候群
  • テニス肘
  • 脳卒中後のリハビリテーション
  • 喘息
  • 薬物中毒

日本鍼灸師会が示す鍼灸の適応症

アメリカ国立衛生研究所〔NIH〕の見解として、鍼灸療法の各種の病気に対する効果とその科学的根拠、西洋医学の代替治療として効果について有効であると発表しましたことを受けて、次のような症状に対して有効性があると示しています。

神経系疾患 頭痛、神経痛、神経麻痺、痙攣、自律神経失調症、不眠、めまい、脳卒中後遺症、神経症、ノイローゼ、ヒステリー
運動器系疾患 頚肩腕症候群、頚椎捻挫後遺症、五十肩、腱鞘炎、腰痛、関節炎、リウマチ、外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
循環器系疾患 心臓神経症、動脈硬化症、高血圧・低血圧症、動悸、息切れ
呼吸器系疾患 風邪および予防、気管支炎、喘息
消化器系疾患 胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)、胆嚢炎、肝機能障害、肝炎、胃十二指腸潰瘍、痔疾
代謝内分秘系疾患 バセドウ氏病、糖尿病、痛風、脚気、貧血
生殖、泌尿器系疾患    膀胱炎、尿道炎、性機能障害、尿閉、腎炎、前立腺肥大、陰萎
婦人科系疾患 生理痛、月経不順、血の道、不妊、更年期障害、乳腺炎、白帯下、冷え性
耳鼻咽喉科系疾患 咽喉頭炎、へんとう炎、鼻炎、ちくのう、中耳炎、耳鳴、難聴、メニエル氏病、鼻出血
眼科系疾患 疲れ目、かすみ目、眼精疲労、仮性近視、結膜炎、ものもらい
小児科疾患 小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)、小児喘息、アレルギー性湿疹、耳下腺炎、夜尿症、虚弱体質の改善


また、近年のEBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づいた医療)という新しい研究手法が取り入れられています。
その中で、さまざまな症状、疾患に対して鍼治療と西洋医学の治療の効果や有用性を比較した研究が行われており、特にドイツとアメリカでは、緊張性頭痛、片頭痛、膝関節痛、腰痛の4つの疾患に対して大規模な比較研究が行われました。
その結果、片頭痛の有効性だけは両方の治療が同等であったものの、全ての安全性、有効性、経済性は鍼治療の方が優れているという結果が報告されました。
この結果を受けて、ドイツとアメリカでは鍼治療が保険が適応されるようになったとのことです。

日本において、保険適応となっている疾患は、以下の疾患に限定されています。

  • 頚肩腕症候群
  • 頚椎捻挫後遺症
  • 五十肩
  • 腰痛
  • 神経痛
  • リウマチ

以上の疾患に関しては、保険適応鍼灸院でのみ健康保険の適用が認められています。
(予め、医師による承諾書が必要です。)
→ 詳細は、公益社団法人日本鍼灸師会ページをご参照ください。

国内外の各疾患ごとに作成されている「診療ガイドライン」に鍼治療に関するエビデンスレベル、推奨度の記載がえてきています。
詳しくは以下のページをご参照ください。
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』
鍼灸安全対策ガイドライン 2020 年版

「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」によって、日本で鍼や灸の施術を行うことができるのは、はり師(鍼師)、きゅう師(灸師)という厚生労働省が認可する国家資格を取得した者だけが許されています。

海外で類した資格(例えば、中国での中医師など)を有している者であっても、日本の法律に則って、日本の国家資格を取得する必要があります。

現在では、鍼師、灸師は、4年制の大学、もしくは、専門学校で3年間15科目の教育を受け、一定の成績取得者のみが国家試験受験資格を得て、年1度(毎年2月の最終日曜日)に実施される国家試験を受験することができます。

施灸

国家試験に出題される15科目は、ツボや、東洋医学の哲学的な科目だけではありません。
むしろ、西洋医学の科目である生理学、解剖学、病理学、臨床医学、リハビリテーション医学などといった科目の方が多く、幅広い知識を習得しなければならない国家試験となっています。